“板挟み役”で終わらせない。社内コーダーとクライアントの間に立つテクニカルディレクターの顧客折衝術
「橋渡し役」として価値を生み出すテクニカルディレクターの視点
テクニカルディレクターは「伝言係」ではなく、要望と制約を翻訳して価値に変えるポジションです。
クライアントの本音・目的をくみ取り、社内コーダーに技術的なこだわりをビジネス言語に変換する。
その往復は単なる「対応」ではなく「提案」に昇華させます。
板挟み感が強いときほど、「どちらの味方か」ではなく「プロジェクトの味方」という立ち位置を明確にするのがポイントです。
そのために、事実・解釈・感情を切り分けて話す習慣を持つと、対話が一気にスムーズになります。
「できない」を価値提案に変える伝え方と会話例
技術的に難しい要望ほど、「否定」から入るか「提案」から入るかで印象が変わります。例えば、動的なアニメーション要望に対して
NG例:「その表現は難しいです」
OK例:「ご希望のような動きは実装可能ですが、表示速度や更新コストが大きくなります。目的が“世界観を伝えること”であれば、次の2案はいかがでしょうか?」
と代替案を用意し、メリット・デメリットをセットで伝えるのが基本。
「やめさせる」のではなく「より目的に合う手段に置き換える」スタンスを崩さないことが重要です。
社内コーダーのこだわりを守りつつ仕様調整するコツ
社内で仕様をすり合わせるときに大切なのは、「お客様の成果につながる必須条件」と「状況に応じて調整できるポイント」をチームで共有しておくことです。
たとえば、ジェイ・ライン株式会社が手がけるコーポレートサイトや採用サイトの制作・運用では、次のような整理を行います。
- ユーザー体験(UX)や表示速度、コンバージョンに直結する要素:お客様のビジネス成果に関わるため、基本的に守り抜く
- 細かな装飾やわずかなレイアウト差など、成果への影響が小さい見た目部分:スケジュールやご予算、運用体制に合わせて柔軟に調整する
お客様とのお打ち合わせでは、「制作側のこだわり」をそのまま伝えるのではなく、「更新しやすさ」「将来の拡張性」「WEB運用管理コスト」「WEBプロモーションとの連動性」といった、ご担当者の視点に置き換えてご説明します。
社内レビューの際には、「どの仕様がなぜお客様のメリットにつながるのか」「どこまでなら運用面で無理なく変更できるのか」をコーダーやデザイナーに言語化いただき、さらにディレクターがお客様向けに言語化します。
こうして基準を蓄積しておくことで、次のプロジェクトでは、Web担当者や人事担当者の意図を踏まえながら、よりスムーズかつお客様本位の仕様調整ができるようになります。
タイトな納期をソフトランディングさせる交渉テク
厳しい納期を前にしても、「無理です」で終わらせないためには、前提条件の見える化が有効です。
会話例:
「ご希望のスケジュールだと、品質を担保したまま進めるには難しい部分があります。ただ、トップページのみ先行公開、一部機能を後ろ倒しにするなどであれば、キャンペーン開始には間に合わせられそうです。」
などといった、「段階公開」という考え方を提示し、ビジネスゴールから逆算して優先順位を再設計するのがコツです。
メール文面サンプル:要望調整と代替案提示
実務で使いやすいのは、「共感 →事実 → 懸念 → 提案」の流れです。
例文:
「いつもお世話になっております。ジェイ・ラインの◯◯です。
ご依頼いただいたトップページの全画面動画背景について、イメージ共有ありがとうございます。世界観を強く打ち出す、という意図は非常によく理解できました。
一方で、現行サーバー環境だと、スマートフォンでの読み込み速度低下が懸念されます。離脱率の増加につながる可能性があるため、下記いずれかの案をご提案させてください。
1)メインビジュアルのみ短尺動画+以下静止画
2)PCのみ動画、スマホは静止画
目的を優先しつつ最適な形を一緒に検討できれば幸いでございます。」
板挟みから「共創のハブ」へ
テクニカルディレクターの醍醐味は、クライアントと制作者の「あいだ」に立つのではなく、「あいだをつなぐハブ」になることです。
要望を翻訳し、制約からアイデアを生み、現実的な落としどころを定義する。そのプロセス自体が、チームの信頼と専門性を育てていきます。
Web制作現場に求められるのは、単なる技術力ではなく「関係性をマネジメントする力」です。
クライアントと制作チーム、二つの視点をつなぐハブとなり、それぞれの想いやアイデアを整理しながら、プロジェクトを理想の着地点まで導いていく。その進行の要として、一歩前に出て、テクニカルディレクターという役割に挑戦してみませんか。